PLL回路における部品交換の影響
測定対象と背景
測定対象は、機器内のマイコンボードに含まれるクロック周波数逓倍用PLL回路です。
このPLL回路は、外部から供給されるクロック信号を周波数逓倍(おおよそ、300kHz から 10MHz)し、マイコンのクロック源として使用します。
この回路のPLL ICが廃止になりました。製造元より後継ICが紹介されましたが、VCO(電圧制御発振器)ゲイン等の仕様が少し異なります。
その結果、ICだけ交換しても問題はないか確認が必要になりました。
事前のシミュレーション評価
実際に評価測定を行う前に、ループゲイン特性のシミュレーションを行いました。
回路構成
- クロック周波数逓倍用PLL回路を下記に示します。
- 赤色の部分がPLL ICに含まれる機能です。

シミュレーション結果
ループフィルタ定数を変えずにPLL ICだけを変更した場合の結果は以下の通りです。 安定性と応答性が改善される可能性があることがわかりました。
変更前
- 位相余裕:32°
- クロスオーバ周波数:9.3kHz
変更後
- 位相余裕:51°
- クロスオーバ周波数:19.0kHz
位相余裕の改善が見込まれる

周波数特性分析器(FRA)による実機評価
FRAを用いて実機のループ・ゲイン特性を測定し、シミュレーション結果と比較します。
測定方法
- ループフィルタとVCO入力の間をカットして、注入抵抗を接続します。
- 注入回路のインピーダンスが高く、FRA直接接続では結果に影響することが想定されるため、シグナルインジェクタプローブ 5055を使用します。これにより、測定誤差を低減します。
- FRAの信号源インピーダンス50Ωに比べて、シグナルインジェクタプローブのインピーダンスは低いため、注入抵抗は1kΩ程度の大きめの値にして過大電流の流入を避けます。

測定結果
測定した結果は以下の通りです。ほぼ事前のシミュレーションで確認した結果と一致しました。
変更前
- 位相余裕:33°
- クロスオーバ周波数:8.7kHz

変更後
- 位相余裕:51°
- クロスオーバ周波数:19.0kHz

ポイント
シミュレーションおよび実測の結果、PLL ICを変更しても、ループフィルタを変更をしなくてもよいことが確認できました。
実際に量産品への反映も行われ、問題は発生していません。
ループ・ゲイン測定の詳細については、技術資料「周波数特性測定によるスイッチング電源の安定性評価」を御覧ください。