直流に重畳した微小信号の測定

大きな直流電圧に重畳した微弱な交流信号や雑音を測定する方法と、それに適したアンプについて紹介します。

直流に重畳した微小信号の測定に影響する要素

直流に重畳した微小信号の測定に影響する要素

大きな直流電圧に重畳した微弱な交流信号を測定する際に、測定限界値に影響する要素は主に次の2つがあります。

  • 測定器のダイナミックレンジ
  • 測定器(測定系)の雑音

これらの一般的な解決方法を以下に示します。

1. 測定器のダイナミックレンジ

大きな直流電圧に重畳した微弱な交流信号や微小雑音を測定する場合、直流成分を除去することが有効です。

例えば、直流10 Vに1mVの交流信号が重畳していた場合、そのまま測定器に接続すると、測定器の測定レンジは10V以上になります。10Vの測定レンジで1mVの変化を検出するためには、ダイナミックレンジ80dB以上の測定器が必要です(オシロスコープでは14 bit以上の分解能が必要です)。
このように直流成分が大きければ大きいほど、微小な交流信号を検出することが困難になります。

この解決方法として、AC結合にて直流成分を除去する方法があります。直流成分を除去できれば、測定する交流信号レベルに合わせた測定レンジに設定できるため、測定器に要求されるダイナミックレンジは現実的な値になります。表1に1mVの変化量のときの測定レンジと必要なダイナミックレンジを示します。例えば、測定器の設定レンジを100mVに下げた場合、1mVを測定するために必要な測定器のダイナミックレンジは40dBとなり、直流除去する前に対して測定器のダイナミックレンジの要求が40dB緩和されます。

表1. 1mVの変化量の測定に必要な測定器のダイナミックレンジの例

測定器の設定レンジ 測定器に必要なダイナミックレンジ
(必要な分解能)
10 V 80 dB (14bit以上)
1 V 60 dB (10bit以上)
100 mV 40 dB (7bit以上)

2. 測定器(測定系)の雑音

微小信号を測定する際、測定したい信号レベルに対して測定器(測定系)の雑音を考慮する必要があります。例えば、普及品のディジタルオシロスコープの雑音レベルは数mVあるので、数μVオーダの微小信号を測定することはできません。このような場合、低雑音アンプを測定器の前段に入れて信号を増幅してから測定することが一般的です。しかし、低雑音に特化したアンプは過大入力に弱く、大きな直流電圧成分をもつ信号をアンプに印加すると、アンプの損傷(故障)が生じることがあります。

過大入力からアンプを守るため、通常は抵抗とダイオードからの直列回路からなる入力保護回路を用います(図1)。しかしながら印加される直流電圧Vinが大きいと、印加される電流Iinを制限するための保護抵抗R1を大きくする必要があります。保護抵抗R1が大きくなると、抵抗の熱雑音Vnが大きくなるため、入力保護と雑音性能はトレードオフの関係になります。例えば、40Vの入力Vinがアンプに接続された時に流れる電流Iinを10mA以下にするためには、R1を4kΩ以上にする必要がありますが、室温における4kΩの熱雑音は8.1nV/√ Hzなので、これ以下の雑音性能は得られません。

この問題を克服するために、エヌエフでは独自の電流制限型保護回路を用いて入力保護と低雑音特性を両立したアンプを開発しました。 次のセクションにて開発したアンプを紹介します。

一般的な入力保護回路の例
図1. 一般的な入力保護回路の例

入力保護と低雑音特性を両立したアンプの実現

入力保護と低雑音特性を両立したアンプの実現

1. エヌエフ独自の電流制限型保護回路

エヌエフで開発した入力保護と低雑音性能を両立したアンプ(図2)は±40Vまでの直流電圧に対してアンプに印加される電流を制限し、かつ雑音性能は2 nV/√Hzと非常に低雑音です。そのため、低雑音アンプでありながら±40Vまでの直流電圧であれば破損や損傷を気にすることなく気軽に接続できます。

表2に開発したアンプの電気性能を示します。60dBという高利得、高域遮断周波数3MHzと広帯域を実現しています。また、LPFの遮断周波数を8点切替できるため、簡単に必要な測定帯域に切替ができます。

外観写真(参考)
図2. 外観写真(参考)

表2. 直流に重畳した微小信号測定用アンプの性能

項目 電気性能
最大入力電圧(DC) ±40V
入力抵抗 1MΩ
電圧利得 60dB
入力換算雑音電圧密度 2 nV/√Hz以下
高域遮断周波数 3MHz
LPF切換機能
(高域遮断周波数の設定値)
ロータリスイッチによる8点切替
3, 10, 100, 1k, 10k, 100k, 1MHz
低域遮断周波数 0.1Hz
最大出力電圧 ±10V

直流に重畳した微小信号測定用アンプのメリット

  • ±40Vまでの直流電圧に重畳した微小信号検出に最適
  • 入力換算雑音電圧密度は2 nV/√Hzと低雑音
  • LPF機能を搭載しており、8段階の高域遮断周波数に設定可能
  • 低域遮断周波数は0.1 Hzと、低い周波数成分まで測定可能

2. 実測例

(1) 直流8.5Vに重畳した 100μVp-p, 100kHzの正弦波の測定

ディジタルオシロスコープ単体で測定した結果(図3)と、開発したアンプを介してからディジタルオシロスコープで測定した結果(図4)を示します。

ディジタルオシロスコープ単体では何も観測できませんが、開発したアンプを用いると直流8.5Vに重畳した 100μVp-p, 100kHzの信号が観測できるようになりました。

ディジタルオシロスコープ単体で測定した結果
図3. ディジタルオシロスコープ単体で測定した結果
開発したアンプ+ディジタルオシロスコープで測定した結果
図4. 開発したアンプ+ディジタルオシロスコープで測定した結果

(2) 直流8.5Vに重畳した 100μVp-p, 100Hzの正弦波の測定

開発したアンプのローパスフィルタ設定 1MHz時と1kHz時におけるアンプの出力波形をディジタルオシロスコープで測定しました(図5、図6)。

低い周波数を測定したい場合、LPFの遮断周波数を適切に設定することで、より高精度な測定(S/N向上)ができることがわかります。

アンプLPF設定 1MHz時の出力波形
図5. アンプLPF設定 1MHz時の出力波形
アンプLPF設定 1kHz時の出力波形
図6. アンプLPF設定 1kHz時の出力波形

(3) 直流8.5Vに重畳した 10μVp-p, 100Hzの正弦波の測定

開発したアンプのローパスフィルタ設定1kHz時におけるアンプの出力波形をディジタルオシロスコープで測定しました(図7)。

低周波でかつ適切なローパスフィルタに設定すれば、10μVp-pの微小信号も高精度に測定できます。

アンプLPF設定 1kHz時の出力波形
(10μVp-p, 100Hzの正弦波入力)
図7. アンプLPF設定 1kHz時の出力波形
(10μVp-p, 100Hzの正弦波入力)

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