直流電源装置

直流電源装置の回路方式と特長

直流電源装置の回路方式と特長

ここでは、商用ラインを入力とする直流電源装置(AC-DC電源)について記述します。
直流電源装置には大きく分けてスイッチング方式とリニア方式があります。
一般的にスイッチング方式は、小型で高効率ですが雑音が大きく、一方でリニア方式は、効率は良くありませんが低雑音なことが知られています。

表1 方式の違いによる性能差

  雑音性能 効率 体積 重量
スイッチング方式 悪い 良い 小さい 軽い
リニア方式 良い 悪い 大きい 重い

したがって、用途によって適切な電源を選択する必要があります。例えば、微小信号測定などに使用する“アンプの電源”や“センサのバイアス源”としては、低雑音·高安定を実現できるリニア電源が適切です。
当社では微小信号測定機器の一部として、リニア電源の中でも非常に低雑音かつ高安定なLPシリーズ電源を販売しています。

1. スイッチング方式

スイッチング方式はスイッチングデバイスのオン抵抗による損失などがありますが、効率は80%以上の高効率を実現する物も多く存在します。また、高周波トランスは扱う周波数※が高いので小型化することが可能です。
しかし、スイッチングによる雑音(スイッチング周波数とその高調波成分)が出力に現れてしまい、リニア方式と比較すると雑音性能が良くありません。

※ 一般的にスイッチング周波数は20k~1MHz程度です。

スイッチング方式定電圧電源装置 概略回路
図1 スイッチング方式定電圧電源装置 概略回路

2. リニア方式

リニア方式はシリーズレギュレータによって低雑音な安定した出力を供給できますが、入出力の電圧差をすべて熱として消費するので効率は良くありません。シリーズレギュレータにはバンドギャップ型やツェナー型などがあり、出力電流·雑音性能·安定性に各々の特徴があります。
また、商用ライン入力を変圧するトランスは一般的に大きく重い場合が多く、熱の放出のためシリーズレギュレータに大きなヒートシンクが必要となります。

リニア方式定電圧電源装置 概略回路
図2 リニア方式定電圧電源装置 概略回路

3. 方式による雑音性能差

微小信号測定などで重要となる雑音性能に関して、スイッチング方式とリニア方式でどの程度差があるのかを実測データで示します(図3、4)。

スイッチング電源では、スイッチング周波数とその高調波にて大きな雑音が存在することが分ります(図3)。また、ハム雑音(50 or 60Hz+高調波成分)も大きく表れていることが分ります。
リニア電源の雑音はスイッチング電源よりも小さいです。しかし、トランスからの磁気雑音の飛びつきや商用ラインからのコモンモード結合によってハム雑音が現れることがあります(図4)。

また、どちらの方式でも外乱雑音が混入することがあります(図3、4)。これは電源装置のシールドや商用ライン入力からの回り込などが原因です。

一般的なスイッチング電源の雑音特性
図3 一般的なスイッチング電源の雑音特性
一般的なリニア電源の雑音特性
図4 一般的なリニア電源の雑音特性

4. 低雑音直流電源 LP5394の雑音性能

一般的なリニア電源やスイッチング電源では抑えることが困難な雑音ですが、当社低雑音直流電源 LP5394を使用すると全体の雑音が小さく、ハム雑音や外来雑音も存在しない非常にきれいな直流電圧を得ることができます(図5、6)。これは、回路設計もさることながら、シールドなどの構造設計をしっかり行うことで実現しています。

当社低雑音電源LP5394の雑音特性
図5 当社低雑音電源 LP5394の雑音特性
各雑音特性(図3、図4、図5)を重ねて表示
図6 各雑音特性(図3、図4、図5)を重ねて表示

電源装置内ディジタル部に起因する雑音

電源装置内ディジタル部に起因する雑音

前項『直流電源装置の回路方式と特長』で紹介した通り、リニア方式の電源は雑音性能に優れていますが、ハム雑音や外乱による雑音が重畳することがあります。
この他に電源装置内のディジタル部に起因する雑音が重畳することもあり、ここでは見落とされがちな雑音要因に関して記載します。

『ディジタル部の雑音に注意』と言っても、ディジタル部とアナログ部(電源装置の場合レギュレータ回路など)を絶縁しなければクロックなどに起因する雑音がアナログ部に影響してしまうことは一般的に知られています(図1)。では、他に注意すべきことは何でしょうか。

ディジタル部とアナログ部を絶縁しなければ、クロックなどに起因する雑音がアナログ部に影響してしまう
図1

1. ディスプレイから放射される雑音

見落とされがちなディジタル部に起因する雑音として、ディスプレイから放射される雑音が挙げられます。
ディジタル部の雑音対策はクロック源やCPUなどが注視されがちですが、ディスプレイも雑音を出しています(図2)。

ディスプレイから放射される雑音
図2

ディスプレイからは、ディスプレイ前面から装置の外部に放射している雑音以外にも、装置内部にも雑音が放射されています。この雑音がアナログ部に影響を及ぼしてしまっては、せっかくの低雑音電源も本来の性能を発揮できません。
下記グラフに一般的なリニア電源の雑音特性を示します(図3)。

リニア電源の雑音特性
図3 リニア電源の雑音特性

数MHzにいくつかスペクトルが立っており、これがディスプレイから発生する雑音です。基板上でいくらディジタル部とアナログ部の絶縁をしていても、ディスプレイから発生した雑音が空間を飛んで来てアナログ部に影響を与えてしまいます。
7セグメントLEDで表示を行っていた頃には問題にならなかったディスプレイの雑音ですが、LCDなどを使用するようになったことで、最近ではディスプレイの雑音にも注意を払う必要が出て来ました。

2. ディスプレイの雑音に影響されない精密低雑音電圧源

エヌエフの精密低雑音直流電圧源 LP6016-01では、ディスプレイの電源をオフにせずとも、下記グラフのようにディスプレイで発生する雑音が出力(アナログ部)に重畳しないように工夫しています(図4)。これにより、非常にきれいな低雑音特性を示していることが分ります。

LP6016-01の高域雑音特性(100kHz~10MHz)
図4. LP6016-01の高域雑音特性(100kHz~10MHz)

また、ディスプレイの前面からは、電波として微弱なノイズが放射されています。電波暗室などで使用する際には、この放射ノイズも抑制する必要があります。
当社では、特別な設計によってこの放射ノイズを抑制する技術を保有しています。カスタム品(図5)として提供できますので、発注時にご指示ください。

ディスプレイ前面からのノイズ対策を行ったLP6016-01(カスタム品)の特性例
図5. ディスプレイ前面からのノイズ対策を行ったLP6016-01(カスタム品)の特性例

放射雑音測定時の構成

放射雑音測定時の構成

フォトダイオードのS/N改善例

フォトダイオードのS/N改善例

受光・発光デバイス(フォトダイオードやレーザダイオード)において、駆動電圧源の雑音が出力に影響を与えやすいことが知られています。
一般的なリニア電源を用いた場合では雑音に埋もれる信号も、低雑音電源を採用することでS/Nよく検出ができます。

動画:低雑音直流電圧源 LP6016-01によるフォトダイオードのS/N改善

低雑音直流電源 LP5394によるフォトダイオードのS/N改善

微小信号測定や高精度な信号検出が求められるアプリケーションでは、低雑音·高感度なアンプやセンサなどのデバイスが用いられます。しかし、これらデバイスの性能がよいだけでは最良の結果は得られません。供給する電源の質によっては、デバイス性能に影響を与える可能性があります。

一般的なフォトダイオードは逆バイアス電圧(Vb)を印加して使用します。このバイアス電圧の雑音は信号出力に大きく影響しますので、低雑音電源を用いて供給する必要があります。
バイアス電圧源の雑音がどの程度出力に影響するのかを、以下に示す測定系において実測しました。

測定ブロック図
バイアス電圧源によるフォトダイオード出力信号と雑音特性の比較

一般的なリニア電源を用いた時には検出したい信号が雑音に埋もれて観測できません。一方で、当社低雑音直流電源 LP5394を用いるとしっかりと観測することができます。このように、同じデバイスを用いたとしても供給する電源の質によって、出力に大きな差が生じます。低雑音·高感度なデバイスを使用する場合には、電源の質に気を付ける必要があることが分ります。

  バイアス電圧源 LP5394 バイアス電圧源 一般的なリニア電源
リアルタイム波形
平均化
スペクトル
レーザーダイオード出力の安定化

フォトダイオードと組み合わせて使用されるレーザ光の安定性には、LDドライバの雑音性能や安定度が影響します。
精密直流電圧源 LP6016-01を使用した、低雑音かつ安定したLDドライバの構成をご紹介します。

水晶発振器の歩留まり改善例

水晶発振器の歩留まり改善例

水晶発振器の位相雑音・周波数確度・周波数安定度などを評価する際、制御電圧源の安定度が評価結果に影響します。VCXO(電圧制御水晶発振器)、TCXO(温度補償型水晶発振器)、OCXO(恒温槽付水晶発振器)の評価には、精密な電圧源を用いることが重要です。

実測例 VCXOの周波数測定 ~制御電圧源による出力周波数の比較~

下のグラフは、VCXOの制御電圧源として一般的に使われている基準電圧源と低雑音直流電圧源 LP6016-01Pを比較したデータです。
※ グラフのΔ周波数は、制御電圧Vctrl=1.000V時の出力周波数(約30MHz)を基準として差分を示しています。

測定ブロック図

出荷検査への応用例

VCXO(電圧制御発振器)、VC-TCXO(温度補償電圧制御発振器)などの雑音の影響を受けやすいアプリケーションには低雑音や時間ドリフトが少ない性能が欠かせません。

実際の検査例として、VCXOで24時間の周波数変動が±10ppb以下という仕様(30MHzの発振器であれば±0.3Hz以内の変動)を挙げます。この仕様を検査するためには電圧源が与える影響をこの10分の1である±1ppb程度に抑える必要があります。

VCXOの電圧による周波数制御は、例えば±1.5V±1.0Vの電圧幅に対し ±10ppmの周波数変動(上実測例の30MHzの発振器であれば±300Hz)が生じるものとします。

一般的な電圧源は雑音レベルが2mVpp前後あり、2Vの電圧調整幅に対して0.1%程度の雑音となります。周波数に直すと±10ppm×0.1% = ±10ppbの雑音となりVCXOの仕様範囲のMAX値と一致します。これでは歩留まりが悪くなりすぎて検査には使用できません。

対して、LP6016-01Pの雑音レベルは20uVpp程度で、周波数に直すと±0.1ppbと充分小さい値となります。出力電圧時間安定度の実力が±3ppm程度、温度安定度が±10ppm/℃ 以下であることを加味してもVCXOに対して電圧源が与える影響を±1ppb以下に抑えることができ、厳しい仕様に対して充分な精度で確認することが可能です(23±5℃程度の変動を想定)。

LP6016-01Pは、低雑音で長時間にわたり安定した電圧を供給可能です。
出荷試験においては良否判定の精度が向上し、歩留まり改善につながります。

電圧源において、時間安定性と温度安定性が明示されていることはあまりありません(特に時間安定性)。これだけ優れた雑音・時間安定性・温度安定特性を示している電圧源はLP6016以外にはないと思います。高性能で安価な製品ですので御社検査ラインへの組み込みを検討してみてはいかがでしょうか。

出力雑音
時間安定性
温度係数

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